つまるところわたくしが告げる愛の告白は彼にとっては命令に過ぎないのです。わたくしは彼の国を滅ぼした帝国の、最も罪深い血をひく娘なのです。彼がわたくしに無条件に傅くことは愛でも恋でもありません。それがわたくしの権利であり彼の義務だからです。彼がわたくしを一等たいせつな宝石のように扱うのはそういった理由のせいなのです。つまるところわたくしは弁えなくてはならなかったのです。わたくしと彼の間に横たわるものが決して飛びこえることができぬ奈落の谷だということを、飛ぶ権利をもつわたくしが弁えなくてはならなかったのです。つまるところわたくしは恋をしてはいけなかったのです。彼にだけは、恋をしてはいけなかったのです。

「あなたが好きです」

「・・・皇女殿下」

「あなたが好きです、だからわたくしを好きになって」

そっと、象牙の頬に触れれば彼は困ったように目を細めました。振り払おうと甘受しようと不敬に当たる行為に、身動きがとれず立ち竦むしか術のない彼のなんと非力なことか。困惑に揺れる緑色の瞳に、わたくしはこんなとき接吻けたくて堪らなくなるのです。その気になれば、わたくしは彼の唇を奪うことも、その逞しい肉体を犯すこともできるのです。けれども己の欲望のままに彼の身体を好きにして、わたくしが得るものは一時の肉体的な充足。失うものは彼がわたくしに向けてくれるうつくしい信頼の情。秤にかけるまでもなく、わたくしは指をひくと、彼の顔をそれ以上見ていることが辛くて背を向けました。

「ごめんなさい・・・答えなど、あなたにはひとつしかないのに」

つまるところわたくしが告げる愛の告白は彼にとっては命令に過ぎないのです。拒否も拒絶も赦されぬ、わたくしの国が彼の国を征服したその日からの不文律―イエスユアハイネス―そのひとつしか。

 

 

支配者の恋

 

 

07/10/11

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送