ひとを殺すための腕だ。しなやかに張った筋肉。銃を扱うことに慣れたてのひら。人殺しを忌避する言動が多いアレルヤだは、その肉体はマイスターの誰よりも人殺しに手馴れたものであった。計算しつくされた四肢のバランスは見事で、刹那は貧相とまではいかないがお世辞にも鍛えられたとはいえない自分の腕を見遣ると、憮然と唇を結んだ。宝の持ち腐れだと心底思う。ひとの生死にいちいち眉を潜めているような脆弱な精神とは裏腹に、人殺しに長けた肉体。

(欲しいな・・・)

力こそが正義だとは思わない。だが己の意志を具現化するには力が必要だ。エクシアという器は完璧だ。後は己が完成されればいい、人殺しの道具として。アレルヤの肉体は其の点完璧だった。

「・・・何か特別なトレーニングでもしているのか?」

「うん?」

不躾な刹那の視線に気を害するでもなく、アレルヤは首を傾げると、紅茶のカップをテーブルへとおいた。そもそも此処はプトレマイオスの食堂で、刹那とアレルヤはたまたま食事が重なりたまたま向かいの席にお互い座った、というか先に座っていた刹那に「ここ、いいかい?」と尋ねたのがアレルヤで、別段断る理由もなかった刹那が黙って頷いたに過ぎない。剥きだしの腕は完成された筋を張っていて、その筋肉は刹那が持ち得ないものだった。

「特別と言われるほどのことはしていないけれど・・・でもまあ空いた時間は結構筋トレとかしてるかな。癖みたいなものでね」

さらりと長めの前髪が揺れる。その奥に隠された眸を刹那は見たことがない。癖、それは身体にしみついた習慣というやつで、刹那の知らないアレルヤの過去に起因するものなのだろうか。

「今度一緒にするかい?ああでも、身長が伸びきる前に筋肉つけちゃうとあんまり伸びなくなるよ」

「・・・」

それは困る。16歳にしては低めの身長は密かなコンプレックスであった。アレルヤは露骨に眉を潜めた刹那にくすりと笑うと、「でもまあ迷信かもね。僕は伸びたし」とフォローのつもりなのか軽く笑いながら言った。

「無理にこうなる必要はないんだよ」

穏やかに笑むその口調には自嘲が混ざっていて、まるで僕のようになるもんじゃないよと言っているようだった。

(それこそ大きなお世話だ)

だって自分達がこれからするのは戦争を根絶するための戦争だ。望むのは闘争の果ての平穏だ。それを勝ち取るためには、(お前のような腕が必要だ)

 

 

私達は人殺しの道具

 

 

07/10/25

 

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