犬の死体が転がっていた。大方車にでも轢き殺されたのだろう。どんくさいことだ。血塗れのそれを見てもティエリアは別段何とも思わない。あるのは死体に対する生理的な嫌悪だけで、哀しみは欠片もない。けれども、隣に立つこの男はどうだ。眉を潜め、隻眼に悲哀を浮かべている。

(全くこいつは・・・)

道端に転がる犬の死体に心を痛めていてどうする。これから自分達が見る死の非ではない。

「さっさと行くぞ。集合時間に間に合わなくなる」

「うん・・・でも」

「墓でもつくって埋めてやれば満足か?いいか、そしたら俺たちは幾つ墓をつくっても足りないぞ」

ソレスタルビーイングが世界に振り下ろす大鉈は、百や千では足りるまい。あからさまに傷ついた眸に苛々する。いっそ泣けばいいのに。そうしたらすこしは優しくしてやる。そんな哀しそうな眸で無理に笑おうとするくらいならば、いっそ泣けばいい。

「―――哀しむ権利なんてないんだろうね」

「当たり前だ」

降らすのは血の雨だ。大義の名のもとに鉄槌を振り下ろす。怨嗟と嘆きが恩讐となって返ってくるだろう。そのときこそ変革の時。世界が変わる。

「ティエリア―――君の強さが僕は心底羨ましい」

ぽた、と一粒の雨。あっという間にそれは地上に降り注ぎ、薄汚い犬の死骸についた赤黒い血さえ洗い流してゆく。アレルヤは請うように天を仰いだ。その頬を涙のように雨が伝う。

(お前が弱いだけだ)

 

 

等しく降る雨のように鉄槌を

 

 

07/10/25

 

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